じえふのあしあと

４月　３日　c∩-（←カメ）

　市長サンからボクあてに葉書がきてゐる。注射のお誘ひである。ボクは獣医さんに来てもらつてゐるから市の注射の会に参加したことがない。さういへば去年の今ごろは大変だつたナァ、あのときは誰もボクが今日を迎へられるなんて思つてゐなかつたでせう。けふはおねえちやんがお泊り。

４月　４日　（ブタ）

　このまえひさしぶりに歩くをぢさんに会つた。　とてもさびしさうなをぢさんで、しきりにボクをうらやむをぢさんだつた。ボクのかはりにママに「おひさしぶりですね、どうなさったかしらとうちで話していたんですよ」と云つてもらつたら、をぢさん顔をくしやくしやにして「いやあ、わたしのことをそんなに心配してくれるなんて、他にはいませんよ」と云ふ。シアワセつてなんだらう。
　ご飯はせつせと食べてゐるけれど、何だか痩せてきたみたいだ。夕ご飯をたくさん食べたらごほうびだと云つておねえちやんがミルクをくれた。

４月１０日　c∩-（←カメ）

　みんなそろそろボクを庭に戻さうと話しあつてゐる。それにはまづ雪でこはれた屋根をなほしておボクの家も掃除してもらはなくては。ボクは玄関のなかも嫌ひぢやないけれど。庭に戻つたらトイレもひとりで行かなくちやならないのかな。

４月１７日　c∩-（←カメ）

　けふは注射の日。おねえちやんが先生に電話してゐる。
　オシッコのあとのんびり昼寝をしてゐたら、先生がきた。ボーつとしてゐる間にチクリとやられた。先生はイヌの心をつかむのがうまい。ボクの手足をみて、「お湯で洗ってあげたほうがいいですよ」と云ふ。だから云はんこつちやない、くる前に洗はれとくんだつた。
　洗はれたら気持ちよくなつたのでおねえちやんを連れてトイレに行つてからまた昼寝。夕ご飯の前のお散歩で、シンブンやさんを見かけた。そしたらシンブンやのをぢさん、バイクをとばしてボクを追ひかけてきた。あとでちやんと配達したのかな、それともたまたまお客さんの家がなかつたのかな。
　うちのをぢさんは一日中ボクのお庭を修理中。なんともいそがしい一日であつた。

４月２４〜２５日　（カメ〜ブタ）

　そろそろ旅に出やうと思ふ。手（飼主注：前足）もすつかり治つて問題はない。その昔ノミにやられてハゲたところに毛が生えただけぢやない、毛のツヤだつてよみがへつた。どこへ行つても恥づかしくないのである。元気の残つてゐるうちに、行かう。
　この一年間、いろいろなことをした。これだけの経験をしたイヌといふのもさうはゐないのではないかしら。
　おねえちやんも来てゐる。をぢさんはおぢいちやんの一周忌で明日から田舎にゆく。けふお別れのあいさつをしておかう。
　草木も眠るウシミツ時、ボクはちよつといたづらをしかけてから旅に出た。ほどなくおねえちやんが目を覚ます。冷たくなつたボクにつきそふため、おねえちやんは冷めたコーヒーをあたためやうとする。電子レンジはヒューズがとんで使へない。